大判例

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広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(う)235号 判決

所論の要旨は、原判決は公訴事実のうち二十七名に対する署名運動の事実のみを認めて有罪としたが右二十七名を含む三十名に対する戸別訪問の点について、「被告人の右戸別訪問の行為は同候補に当選を得しめる目的をもつて専ら選挙人等の署名を求める意図の下に、行はれたものであつて、戸別訪問によつて投票を獲得する目的のあつたことを認めるに足る証拠がないから、その行為は判示の如く署名運動の罪を構成するも別に戸別訪問の罪を構成するものと解し難い」として無罪の言渡をしている。即ち原判決は被告人が戸別訪問をした事実と投票を得しめを目的をもつていた事実とはこれを認め乍ら投票獲得の目的は戸別訪問に結びつかず署名運動にのみ結びついているとした原判決は理由にくいちがいがあると謂うにある。

そこで公職選挙法第百三十八条第一項と同法第百三十八条の二とを対比すると、両者はいずれも「何人も選挙に関し投票を得若くは得しめ又は得しめない目的をもつて」と規定し、この点において其の構成要件の一部を同じくしているが、前者は「戸別訪問をすることができない」とあるのに対し、後者は「選挙人に対し署名運動をすることができない」としている点において、其の構成要件の一部を異にしている。即ち前者の罪は常に前記の目的を以つて戸々に選挙人を訪問して選挙人に対し、自分又は他人のために投票獲得の運動をしたり、又は特定の人に投票をさせないように運動をしたりすることをその構成要件としておる。特にその手段方法については何等の制限がないから、戸々に選挙人を訪問した上で投票獲得などの運動をする限りに於ては広くこの罪の構成要件を充すものと考えられる。

之に対し後者の罪は前同様の目的を以つてする前同様の選挙運動ではあるが、ただその異るところは、その運動の結果を確実にするために特に選挙人に署名を求めるということが附加されておることと、偶々前同様の目的を以つて戸々に選挙人を訪問してそれらの署名を求める運動をすることがあつたとしても、戸々に選挙人を訪問すること自体は後者の罪の構成要件に該当しないという点にある。

然し若し前同様の目的を以つて戸々に選挙人を訪問して前同様の署名要求の運動をしたときは、たとえ、署名要求の運動をしたということが附加されたとしても、右に説示したように戸々に選挙人を訪問して投票獲得などの運動をしたということを妨げない。従つて此の運動は同時に前者の罪の構成要件をも当然に充足することとなるから、此の場合に於ては此の二つの罪は刑法第五十四条第一項前段に所謂一個の行為にして同時に二個の罪名に触れる場合に該るものと解するを相当とする。

然るに原判決は本件公訴事実中被告人が昭和二十九年十二月八日頃選挙に関し、丸尾候補者のため投票を得しめる目的で選挙人である今村泰造外二十九名を戸別に訪問した事実を認定し乍ら右戸別訪問は同候補者に当選を得しめる目的をもつて専ら選挙人等の署名を求める意図の下に行つたものであつて、戸別訪問によつて投票を獲得する目的のあつたものとする証拠がないとして、右戸別訪問の点について無罪の言渡をしたことは原判決書に明かであるが、前段において説示した如く投票獲得の目的をもつて戸々に選挙人を訪問して署名を求める行為は同時に公職選挙法第百三十八条第一項の戸別訪問の罪にも該当するから之を戸別訪問によつて投票を獲得する目的のあつたものと認める証拠がないとして無罪の言渡をした原判決は事実を誤認したか、又は法令の解釈適用を誤つたか乃至は理由のくいちがいの違法を犯したもので、この違法は判決に影響を及ぼすことは明かであつて、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は結局において理由があるから、その余の論旨に対する判断を加えない。

そこで刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条第三百八十二条第三百七十八条第四号に則つて原判決を破棄した上同法第四百条但書に従つて更に本件について判決する。

一、罪となるべき事実

被告人は昭和二十九年十二月十二日施行せられた津山市長選挙に立候補した丸尾耕造の選挙運動者であるが同年十二月八日頃同候補者のため投票を得しめる目的を以て別表記載の如く選挙人である津山市二階町三三ノ一今村泰造方外二十九名を夫々其の居宅に訪問し且つ別表備考欄記載の如く右今村泰造外二十六名に対し其の都度前記趣旨の下に署名を求め以て署名運動をしたものである。

(裁判長判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人 判事 菅納新太郎)

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